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慣れないモノレール

これは、2010年3月の作品です。
追記より読んでいただければ幸いです。
 ピッ、という電子音で改札を抜けるのは、海鳴もミッドも、そんなに変わりません。
 こっちに来てから一週間。濃密なスケジュールは、苦しいけど楽しくて、あっという間!
 はやてちゃんは、上級キャリア試験、とかいう、ちょっと難しめの試験勉強をしてるんですけど、その傍ら、私とフェイトちゃんは、夢に一歩近づくインターンシップ!
 フェイトちゃんは、まだ執務官試験に合格してないので、毎日そわそわしてるんですが、それでも執務官さんの補佐をやって、毎日が楽しそうです。
「フェイトちゃん、今日はどんな仕事?」
「えーと、あのね、裁判所に送る書類をつくるのを手伝う仕事」
「へぇー、だいぶ本格的なんだね」
「……うん。やっぱり執務官って、すごいんだなーって思っちゃう。うう……やっぱり試験、だめかも……」
「そんなこと言わない! クロノ君だって、今度は絶対受かった、って言ってたじゃん」
「うん。でもね、やっぱり計算ミスしてた気もするし、もしかしたら名前書き忘れてたかもしれないし、それに……」
 ここ最近は、モノレールが着くまでの時間は、こんなフェイトちゃんのつぶやきタイムなのです。
 昔っから、フェイトちゃんはこういう癖があって、テストの後はいつもこんな感じ。
 でも、今まで本当に計算ミスをしてたことも、名前を書き忘れるなんてドジをやったこともありません。
 だから、心配性って言われるんだよね……
 だけど、今回はちょっと特別。
 私たちのなかだと、禁句になってるけれど、フェイトちゃんはこの試験、2回も落ちてるんです。
 2回目は、ちょっと申し訳ないかな。私があんな大怪我しちゃうから、心配して自分の試験だめにしちゃったみたいで。
 でも、そんなこと考える前に、このままだといつもと同じ堂々巡りが始まっちゃうから、フェイトちゃんの頬を手ではさんで。
「にゃ、にゃにょは?」
 手に挟まれてフェイトちゃんは発音できてない。出会った頃のヴィータちゃんみたい。私の名前って、そんなに発音しにくいかなぁ?
「いつも言ってるけど、フェイトちゃん、もう少し自信持たなきゃだめだよ」
「だ、だってね、なのは」
「口答えはなし! とーにーかーくー、試験の話はここまで! 合格発表、明々後日でしょ? 今から考えても仕方ないよ」
 試験前のフェイトちゃんの焦りぶりはとんでもなかったなぁ。学校にリボン着けずに来たのは、まだあのときだけだよね。みんな、大人っぽいとか言ってたけど。
 最近、そのときくらい、慌ててないかなぁ。
「ごめん、なのは。最近、いつも私この話ばっかりだね」
「ううん、仕方ないよ。でも、必要以上に慌てちゃダメ」
「はーい。あ、そうだ。なのはは、今日はどんな仕事なの?」
「えーとですね……本日のなのはの仕事は、教導官さんについていって、シュートコントロールの個人レッスンなのです!」
「うわぁ、なのはすごいね。ついに、レッスン担当なんだね」
「えへへ……」
 そう、今日はついにレッスン担当。
 昨日まで、苦しいことや辛いこともたくさんあったけれども、ついに夢に近づくことができます。
 失敗しても、めげない! 全力全開でがんばるよ!
〈右回りのモノレールが参ります。電車内、混みあっております。順に中ほどに詰めてお入りくださいますよう……〉
「なのは、来たよ」
「そうだね」
 モノレールの中は戦場。
 通勤ラッシュは、結構きついのです。
 今日もやっぱり、モノレールの中には人、人、人。
 うう、気が滅入る……とにかくフェイトちゃんと離れ離れにならないようにしなきゃ。
 プシューって音が鳴って、モノレールの扉が開くと、まずこの駅で降りる人たちが出てきて、次にモノレールに入れるかどうかを駆けた壮絶な戦いが始まるの!
 最初の頃は私もフェイトちゃんも戸惑って4つくらい後のモノレールに乗るハメになってたけど、今は違う。高速戦のできるフェイトちゃんが、ささっと人の波を縫うように私をモノレールにエスコートしてくれる。
 そして、今日もフェイトちゃんのおかげで、しっかり中に入ることができました。……いつもどおり、ちょっと息苦しいけど。




 インターンシップの間、私はハラオウン家でお世話になってます。
 もちろんリンディさんやクロノ君、エイミィさんもいるんですけど、なんだかんだでみんな忙しいみたいで……  聖祥大付中にみんなで進学したあと、リンディさんはアースラの艦長を辞めて、本局の内勤さん(?)になったみたいです。フェイトちゃんも、「母さんといれる時間が多くなったかな」とかいって、頬が緩んじゃってて。だけど、それでもリンディさんは忙しい。
 クロノ君やエイミィさんも、家に戻らずにアースラに留まっている時間のほうが多いし……フェイトちゃんを連れて行っちゃうときだってあるんだよ!?
 というわけで……ここ最近、くったくたになってお家うちに帰ってる私たちは、なかなかお話できる時間もないわけで……つまり、その、あれなのです! 友達としての……スキンシップが足りてないのです。
 だから、この電車の中の時間は、とっても大切な、お話できる貴重なものなのですけど……えっと、ごほん、私たちは仮にも「かんりきょくいん」なわけで、いろんな人のお手本じゃないといけないのです。
 というわけで、電車の中では私たちはおしゃべりはできません。
 うう……気が滅入るぅ……
〈次はー、第三ターミナルビル前ー、お降りのお客様はー、出入り口付近でお待ちください〉
 どうして車掌さんはいつも「~はー」って伸ばすんだろうなぁ。
 もぞもぞと、いろんな人が動き出すこの時間が一番苦しい。
 フェイトちゃんとなるべく離れないようにしなきゃ、ってなるんだけど、フェイトちゃんも次の駅で降りちゃうから、2回に1回はもう会えなくなっちゃう。
 というわけで、こっそりレイジングハートとやっていた戦闘イメージトレーニングはここでおしまい。
〈ご乗車の皆様……〉
「……なのは」
「ん?」
 駅に到着したけれど、今日はなんとか一緒にいることができました。なにしろ、しっかり手を繋いでるもんね、今。
「今日、お仕事終わるの、何時頃かな?」
 声を潜めるように言ってくるフェイトちゃん。ちょっと上目遣いなこんな表情のときは、フェイトちゃんが何かお誘いとかをするときなのです。
「うーん、たぶん5時くらいじゃないかな」
 私もちっちゃな声でおしゃべり。このくらい……許してくれるよね?
「あのね……私も今日、書類仕事だけだし、たぶん、というか100%、うん、間違いないはずなんだけど……ちょっと早めにお仕事終わるんだ。それでね、なのは、昨晩聞いたんだけれども、今日はリンディさんがいないんだって。それでね、えーと……」
 んでもって、フェイトちゃんはこういうときははっきりしない言い方をする。正直、何が言いたいのかわかんないことが多い。でも、大体は推測できるから、先回りしてこっちが言っちゃえばいい。
「どこかに食べに行こう? かな?」
「そうっ!!」
 声が大きいよ、フェイトちゃん。
 じろっと見てきた乗客の皆さんに、しゅんとしちゃう。フェイトちゃんも、思わずっ! って感じだったのか、なんかしおらしく恥じ入ってます。
「私は、今日は3時には終わるから……なのは、どこか行きたいところある?」
 うーん、と考える。
 ミッドチルダのほうのお店はよく分からない。なんとなく洋食という感じだけれども、どこか地球のものとは違うし……それに、最近は疲れてるし、重いものも食べたくないんだよね。
 だ、か、ら。
 こう言っちゃおう。
「そうだね。レストラン・フェイトで」
「……?」
 クエスチョンマークを頭から出してるような表情のフェイトちゃん、かわいい!
 そして、10秒くらいたって……
「え? ど、どういうこと?」
「じゃあ、6時くらいにお家うちに帰るね」
 なんかフェイトちゃん言ってきたけど、もう既成事実にしちゃうの。
「楽しみにしてるよ」
〈えー、次はー、局地上本部前ー、局地上本部前……〉
 ちょうどいいタイミングでお別れの時間。
「え……私なんかで、いいの?」
「うん。『なんか』じゃなくて、フェイトちゃんのだから『こそ』、食べたいな」
 そう言うと、フェイトちゃんの頬が緩んでて、なんか私もうれしくなる。
 だから、今別れるのはすごく寂しいんだ。
 降りるお客さんが扉に向かってて、フェイトちゃんももう向かわないといけない。
「じゃあ、またね」
「……うん。精いっぱい、がんばるよ」
 それきり、フェイトちゃんは行ってしまった。
 いつも送り出す側なんだよね、私は。少し寂しいかな。
 お客さんの間を縫うようにしても、もう陰になってフェイトちゃんは見えない。
 だから、私はいつものように窓の近くに移動する。
〈局地上本部前です。お降りのお客様は、お忘れ物のないよう……〉
 アナウンスが鳴って、ドアが開く。
 新しく入ってくるお客さんがいるけれど、流されないよ、私。ここは負けるもんか!
 ドアが閉まる。
 死守した場所から外を見れば、やっぱり。
 フェイトちゃんが、こっちを向いて微笑んでくれていました。
 少しずつ、電車が進むにつれて、フェイトちゃんが左に左に流れていく。
 この瞬間が、嫌い。
 だんだんと、フェイトちゃんが遠いところにいっちゃうみたいで、嫌い。
 電車が発進するとき、私の体は引っ張られるけど、まるでフェイトちゃんに引っ張られる感じだな、って思ったことも何度もある。
 でも、あっという間に、フェイトちゃんは見えなくなる。
 いつものこと。
 だけど、いつも辛い。
 別れって、何度あっても、慣れることなんてできない。
(……レイジングハート)
(All right)
 だから私は、気を紛らわすために、いつもイメトレをはじめます。
 私が降りる駅まであと10分。


 成績の悪い、イメトレの始まり。
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テーマ:魔法少女リリカルなのは - ジャンル:アニメ・コミック

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